REPORT 現場リポート

オリンピック・レガシー ~後編~

2021.09.07
制作技術・報道技術

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■ 細心の注意を払った取材
無観客開催となったことで、選手の家族や競技を楽しみにしている人々へ情報を届けるという、マスメディアとしての役割の重大性が増しました。この重要なミッションを正確かつ安全に執り行う為にも厳しい取材ルールが設けられ、通常のオリンピック取材とは全く異なる形式がとられました。
私たちも週2回PCR検査を受け、陰性であることが第一条件となり、さらに会場の入場や会場内を移動する度に消毒や検温が必要でした。少しでも体調に異変が見られたら取材ができなくなります。このように違う意味でのリスクと毎日隣り合わせで、毎回検温の際は冷や冷やとさせられました。

競技直後の選手に対して簡単なインタビューをすることができる、「ミックスゾーン」と呼ばれる選手を囲むエリアは、会場内で選手との距離が一番近くなることもあり、特に配慮が必要でした。ミックスゾーンには二人までしか入ることができなかったため、マイクスタンドを使って選手から2m以上離れたところからインタビューするスタイルがとられました。本番は少人数での対応となるため、インタビューが始まる前は選手の声がしっかり撮れているか、常に不安な気持ちでしたが、毎回事前に入念なチェックを行うことで、最後までトラブルなく映像を届けることができました。
また撮影ポジションも限定されたため、各競技の担当局を民放5局の中で決めて受け持ち、撮影素材を分け合う形をとることで、密にならないように手を尽くしました。

自由に取材ができない状況で、もどかしさが残る時も多々ありましたが、何よりも安全第一に考え、各局が協力し、大会の成功を祈って業務にあたったことは、今後の大きな収穫になったと思います。
情報を届ける為の意地とコロナ禍の制限との板挟みで、とても難しい取材でした。
ただ「チームで連携し、心を配る取材」で、間近で見られなかった多くの視聴者に、テレビを通して少しでも大会の空気を味わっていただけていたら嬉しく思います。

■ オリンピックの意義
果たして東京オリンピック2020は開催すべきだったのか、世論の明確な答えはまだ出ていません。近年、オリンピックの費用対効果が低いという見方もあり、大会自体の存続も危ぶまれています。ただオリンピックがもたらす影響は数字的な部分だけではないはずです。今後は我々の心にもたらす質的な評価が求められてくるのではないでしょうか。それは、すぐに結果が見えないため軽視されがちですが、今年の大会に参加した人、またテレビを通してオリンピックを楽しんだ人の心を揺さぶり、10年後、20年後に社会がより良い方向に進んでくれていることを期待しています。
自国開催という歴史的な大会でその一端を担えたことを誇りに感じ、これからもオリンピックがもたらす感動と成長を世界に発信していければと思っています。

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