REPORT 現場リポート

Freshman's Report 2022 Vol.6「ポスプロ技術センター ポスプロ技術部 生田スタジオ」

2023.02.21
ポスプロ技術・報道編集

Freshman'sReport 初?ドラマMA

 

■ はじめに
初めまして。2022年度 Freshman’s Report の最後は生田スタジオ ドラマMAに配属された賀川友理が担当します。
私は昨年6月にポスプロ技術部に配属されましたが、最初の4カ月間はShidome19BoxやNiTRo SHIBUYAのLabでメディア変換の仕事を学んだ後、10月から生田ドラマMAへ本配属となりました。
しかし配属後の11月半ばから約1ヶ月間は、サッカーカタールW杯の収録応援業務のため生田から離れていたので、他の同期より本配属されてからの期間は少し短いです。
今回、この原稿を書くために先輩方のFreshman’s Reportを見返したところ、2017年のリポートにドラマ編集とMAに配属された先輩の記事はそれぞれ見つけることができましたが、私と同じドラマMAの原稿はありませんでした。
それもそのはず、ドラマMAは少人数精鋭。そして、この数年の間に新入社員が配属されたことはありません。謎に包まれたドラマMA。そんな未踏の地に配属された、新入社員の話にお付き合いいただけると幸いです。

 

■ 先輩は4人、スタジオは1つ
私は理系大学で情報学を専攻していました。最初はテレビ業界の知識もなく、「カメラマン、編集マンになりたい!」というような特定の志望職もなく、ただテレビへの憧れだけでNiTRoへの入社を決めました。右も左もわからずに入社して最初の2ヶ月で受けた研修はNiTRo全体の幅広い業務を教えていただくものだったのですが、全く知らない事だらけなのに、自分の生活と関わりの深いテレビの裏側についての研修はとても興味深く、長い義務教育から大学までを支えてくださった諸先生方には申し訳ないですが、人生でも指折りの勉強になる期間でした。
その中でも、私は音を編集するMA(マルチオーディオ)に興味を持ち、さらにその業務の中で「整音」をやってみたいと考えるようになりました。整音というのは書いて字の如く、不要な音を消して、聞きやすい音を選定したり、自然な音量に調節したりと、「音を整えていく作業」です。
画の編集のような派手さや注目度は低いかもしれませんが、私はその丁寧に整え、音にたくさんの情報を含める事のできる作業に憧れを抱きました。そしてMAの中でも整音を一番たくさん経験できるらしいと教えて頂いたのが、ドラマ専門のMAでした。

それから、私の志望はドラマMAになりました。しかし、そう自覚してからも他の職種への憧れも捨てきれず、あまり大きな声で志望職種を上司に伝えてはいませんでした。
しかし昨年9月末に伝えられた10月からの配属先はなんとドラマMA!
運命を感じつつ、配属初日を迎え、わくわくしながら山の上にある生田スタジオに行くと、MA担当者はたったの4人。そして、その先輩方が使っているMAスタジオは生田にたった1つ。たかが半年間とはいえ少しずつ業界の雰囲気を掴み始めていた私は、生田スタジオの少人数精鋭っぷりに驚愕しました。

 

■ 師匠、担当
生田のドラマMAになると基本的に1つのドラマを担当し、1クールの約10話を最初から最後まで責任を持って担当します。MA見習いの私は配属されて最初に水曜ドラマを担当することになりました。
担当と言っても見習いの身なので、アシスタントとして水ドラ担当の先輩にくっついて整音作業を教えて頂いたり、その作業を見学したりします。この先輩がいわゆる私の「お師匠様」になり、今後も1から100まで指導していただくことになる方です。
もちろん生田のドラマMA担当は4人いらっしゃるのでそれぞれ教えていただく機会もありますが、スタジオが1つしかなく、自分と違うドラマを担当している方とは出勤が被る機会も殆どない環境なので、少なくとも1クールの間は同じ師匠に指導を請います。
生田は業務的にも立地的にもどうしても閉鎖的な環境になってしまいますが、逆に言えばひとつの教えや考え方に専念することが出来ます。

「担当」「師匠」。
それらの言葉は、今まで様々な部署を「研修」という責任の問われない名目で彷徨い、最終的にどこに本配属されるかわからず不安が募った約半年を過ごした自分にとって入社して初めての経験、それどころか、今までの人生においても、なかなか無いものでした。1つの業務に就き、一人の方に一対一で指導して頂く。それは就活中から今までずっとぼんやりとしていた自分の目指す場所がはっきりした事の証明で、道がようやく明らかになったのだと嬉しい気持ちにしてくれると同時に、私の背筋をピンと伸ばしてくれました。

 

■ 勉強から修行へ
繰り返しになりますが、生田のMA室は1つしかありません。
しかし生田で編集しているドラマは基本1クールで2本あるので曜日毎にMA室を使える番組を決めていて、先輩方はその限られた時間の中で最大のパフォーマンスを提供しています。私は日々、整音する師匠の後ろで、その仕事を観察したり、ヘッドフォンを使って自分で整音してみたりと勉強をしているのですが、最近は「勉強」という言葉はあまり適切でないなと感じています。
学生の頃は欲しい成果を手に入れるため、「勉強」という、覚えたり、考えたりする作業をしていました。歴史を覚えるために教科書を何度も読んで覚え、数学の問題を解くためにペンを握って頭を必死で回転させる。しかし今はノートを見返してもペンで計算式を書いても、成果が得られる訳ではありません。ノートを見返す時間があるなら先輩が整音する音を聞いて、ペンを動かす時間があるなら編集ソフトのショートカットを素早く叩く練習をします。これは勉強というよりも、「修行」に近いなと感じます。勿論知識を持った上のテクニックや考えなくてはいけない取捨選択もあります。ですが音の違いがわかる一人前になるために、耳を鍛えるために繰り返し「聞く」、素早いオペレートをするためには、頭を動かさなくても手が動くように繰り返し「やる」しかありません。マニュアルを見ればできるという仕事では無く、替えの効かない仕事をしているんだ、とやりがいを感じますが、それと同時に自分の中で積み上がっているはずの経験はテストの点数とは違って可視化されないので、不安になることもあります。

 

■ 制作に近いポスプロ
ここまでMAの仕事の中でも整音について注目してきましたが、MA本番の日には監督、プロデューサー、ミキサー、音効、選曲、たくさんのポスプロ以外の方が集まる場所で、司会のように場の進行もしつつ、編集部との連携や機材のオペレートもしなくてはいけません。MA本番の日というのは前述の方たちが集まり、完パケにミックスする日のことを言います。この進行にはコミュニケーション能力は勿論、観察力や記憶力なども必要です。その場にいる方達のそれぞれの仕事のしやすさ、現状把握、そして勿論より良い作品にするためのフローなど、様々なことを考えながら司会進行をする姿からは、整音の技術だけが完璧になったとしてもMAとしては不十分なのだと強く感じます。そしてそんな師匠の後ろ姿を見ていると、いつになったらこれになれるのだろうと途方もない気持ちになります。

MA本番の日には様々な方がMA室に集まりますが、ドラマ制作という業界は番組が変わっても同じメンバーでまた仕事をすることも多いようです。なので、ポスプロメンバーも制作の方達と顔馴染みになり、「あのドラマぶりだね」「また一緒の番組だね」という会話を生田ではよく耳にします。好みや相性も大切な仕事なので、それによるやりやすさは勿論あると思いますが、ある程度決まった面子の中で働くということは、良くも悪くも「私」を忘れてくれません。良い評判は、もしかすると指名につながるかもしれませんし、悪い評判はその逆になるかもしれません。常に緊張感があるなと日々感じますが、制作との距離が近いことで自分が何を求められているのか、どのような評価を受けているのかは、他の現場より感じ取りやすく、自分の成長には間違いなく有利です。

整音の耳や技術を鍛えることと、MA本番進行の頭を鍛えること。どちらか片方だけでは指名を頂けるようなMAにはなれません。両方を学べるよう日々修行を重ねる中で、これは仕事のプロとしても、社会人としても、どちらの方向にも成長できる仕事だなとひしひし感じます。理想のMAを直向きに目指しつつ、理想のアップデートも忘れないよう、常に新鮮に現場を吸収していきたいです。

 

 最後に
就活中、絶対にこの業界に、NiTRoに入りたい!と、すがり付くように先輩方の「Freshman’s Report」を読んでいたので、こうして自分がリポートを書く側になれたことに嬉しさと恥ずかしさを感じます。
当時、私は先輩方のリポートから、「結局大切なのはコミュニケーション能力」だ、と読み取っていました。そして今、自分がこの原稿を書く立場になると結局、大切なのはコミュニケーション能力だと痛感します。「でも、それって頑張って身につけられるものではないなあ、生まれつきのものだなあ」と思います。

就活中や就職してからもよくそれを補える方法を考えていたのですが、最近は「勇気」という結論に辿り着いてみました。「コミュニケーション能力」が大切なのはその万能さゆえですが、「勇気」もまた万能だと私は思います。
極論、コミュニケーション能力がなくても、「コミュ力ないです!」と言う勇気があれば、なんとかなる気がします。1の能力を持っていなくても諦めず0.5と0.5の能力を考え求め努力すれば、1を最初から持っている人よりも貴重になれると、私は信じるようにしています。
就活生の皆さんも自分なりのペースで頑張ってください!


筆者


◀ Freshman's Report2022 Vol.5

 Freshman's Report2023 Vol.1 ▶

カテゴリ