REPORT 現場リポート

さらに向こうへ ~映像の最先端~ 第3部『盲目のピアニスト辻井伸行のグレーディング~貴重!生演奏現場体験~』

2021.05.19
ポスプロ技術・報道編集

『NiTRo SHIBUYAって一体どんな業務をしているところなの?』
そんな疑問に少しでもお応えできるように「映像に携わる仕事がしたい!」と思っているみなさんに昨今のポスプロ現場事情を自分の体験談をもとにお送りしたいと思います。


NiTRoの正式社名は「日テレ・テクニカル・リソーシズ」。
会社名に“日テレ”が入っているので日本テレビに関わる番組を作っている会社!という印象があるのではないかと思います。
しかしNiTRo SHIBUYAでは主に他局の4K、8K編集、ドラマや舞台、デジタルリマスター、ネット配信動画、商業施設用動画など多種多様なコンテンツを扱っていると共に最新の技術を活かしたポスプロ業務も日々行っています。


そこで、最近実際に携わったポスプロ業務を3回に分けて紹介したいと思います。

 第1部 『デジタルリマスターの世界』
 第2部 『12K!!? 海中360度VR映像』
 第3部 『ピアニスト辻井伸行のグレーディング~貴重!生演奏体験~』

今回は最後の第3部 『ピアニスト辻井伸行のグレーディング~貴重!生演奏体験~』です。


 

『盲目のピアニスト辻井伸行のグレーディング~貴重!生演奏現場体験~』

最後は少しハートフルなお話。

BSフジで2020年の年末に放送された4K HDR番組のオンライン作業です。
この番組はピアニストの辻井伸行さんが海外で過去の偉人の生家に行ったり、現地のカルチャーに触れたり、偉大なマエストロと一緒に演奏する内容で、年に1、2回放送される3時間のスペシャル番組です。
今年はこの番組が10年目を迎え、年末に収録した当時の最新の演奏をお届けする内容でしたが、今回はコロナ禍の影響によりコンサートホールでの演奏は無観客となりました。

収録にはオフライン編集を担当する上司が現場立ち会いすると聞きつけ、「自分も行きたいっす!!」とお願いし、収録に立ち合わせてもらうことに!

 
本番前リハーサル風景


収録当日は無観客ということでホールの中には辻井さんとスタッフ以外誰もいません。いよいよ本番となり静寂に包まれたコンサートホールでは、わずかな足音や紙切れの音ですら会場全体に響き渡ります。
凄まじい緊張感がほとばしります。何もしてないのに自分もドキドキします。シビれます。アドレナリン出まくりです。

 
静まりかえったコンサートホール

本番! 
『♫~』

辻井さんがピアノを奏でた瞬間、音色がホール全体を包み込んで支配していきます。
泣きそうになりました。気持ち的には感動で泣きたかったですが、隣に上司がいるのでグッと堪えました。
    
10周年という節目の年をコロナ禍で迎え、長年番組に携わってきた制作スタッフ、技術スタッフの様々な想いを肌で感じることが出来たおかげで、より一層モチベーションが上がりました。

 

■ コンサート収録は4K HDR BT.2020撮影
ここからは技術的な内容になりますが、グレーディングにおける基本です。
今回の番組は4K HDR収録が行われました。HDRとはHigh Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)の略称で、従来の画像よりもより広い明るさの幅を表現できる技術です。4Kによる解像度だけでなく輝度領域や色域が2K HDよりも非常に広いため、ハイライトや陰影、色彩の表現力が格段に上がり、人間の視覚により近づけることができます。辻井さんやピアノの鍵盤が、ホールの照明の光に繊細に投影されていた光景を、いかにリアルな映像として表現できるか、非常に難しかったのですが、とてもやりがいがあります。

(左図) 逆三角形の色域は人間が認識できる可視領域。BT.2020(赤い三角形)はほぼ人間が見える色の領域を表現できる。
(右図) 輝度と色域を3次元的に表現した図。左図のBT.2020の色域(右図底辺)とHDR(輝度表現)を組み合わせることでBT.709(HD放送)より格段に表現力が広がる。

BT.709=HD放送  BT.2020=4KHDR放送  (出典:ソニー「What’s HDR」より引用)


自分も現場に立ち会ったため、スマホで撮った写真やその時の記憶を思い出しながら実際の雰囲気に近づけつつ、見やすく違和感がでないよう表現することを心がけました。

すべての作業を終えて最終試写も無事に終わり、関係スタッフのみなさんと共に達成感に包まれました。スタッフひとりひとりの作品作りに対する熱い想いに触れられて、改めて作り手側の本質というか、クリエイティブに対する心構えを再認識する事ができました。

いい作品を作りたいとホールで収録に真剣に臨む制作スタッフ、技術スタッフの姿はとてもカッコ良かったです。
コロナ禍で先が見えない世の中ですが、辻井さんの力強く未来への明るい希望を込めた番組に携われたことで、今しか体験できない貴重な経験をすることが出来ました。


 

まとめ

NiTRo SHIBUYAでは、まだまだたくさんの最先端の映像編集業務を日々行なっています。
8Kともなると解像度以外にも輝度、色域、ビットレート(階調)、フレームレートなど、殆ど人間の視覚情報と変わらない領域まで技術は進歩しています。
その結果、モニターは平面であるにもかかわらず奥行き感が生まれ、擬似的に映像が立体に浮かび上がってくるような錯覚に陥ります。

それをスポーツのパブリックビューイングやイベント会場、商業施設、ネット動画、VRなどに活用することで大迫力の映像を視聴者に提供することが可能になります。
テクノロジーの進化のスピードは凄まじく、それと共に映像表現の幅もますます進化しています。進化すれば映像媒体もより広がっていきます。

それをどう活かすのか、どう表現するか。
NiTRoでは技術会社として日々、最先端の映像を世の中に提供しています。
最先端の機材に囲まれて、尊敬できる先輩、後輩と共に僕も時代に取り残されないように必死に食らいついていこうと思います。

より映像を美しくしたい、もっと面白く映像を加工したい、自分のデザインでかっこよく作品を表現したい。新しい映像コンテンツやシステムを作りたい。
特にこれから映像の世界に飛び込もうとしている新鮮な発想力を持った若い世代の皆さんには個人でなかなか揃えることの出来ない最先端の機材に囲まれて、思う存分その能力を発揮して活躍してほしいと思います。


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