REPORT 現場リポート
東京湾のサンゴ産卵で「映像技術賞 特別賞」を受賞! 〜暗闇の海でプレッシャーに挑んだ裏側〜
こんにちは!報道技術部カメラマンの佐々木です。
日本テレビ報道局には、私を含め6人のカメラマンが所属する「水中班」があります。
私たちは日々のニュース取材を行いながら、水中の世界も追い続けています。
このたび、私たちが撮影した「東京湾でサンゴの産卵」が、日本映画テレビ技術協会の「映像技術賞 特別賞」を受賞しました!映画やドキュメンタリーが名を連ねる伝統ある賞です。
表彰式の壇上では緊張で足が震えましたが、同時に「この仕事を続けていて本当によかった」と深い達成感が込み上げました。

表彰式の様子(画面右端が筆者)

受賞の様子
今回は、2ヶ月に及ぶ水中撮影の裏にあった“苦悩と奇跡の瞬間”をお話します!
■ 「夢物語」から始まった挑戦
「東京湾のサンゴの産卵、見てみたい!」
というベテラン先輩の熱い想いからスタートした企画ですが、調べれば調べるほど絶望的な難易度であることが判明しました。沖縄のサンゴと違って東京湾のサンゴは研究データがほとんどなく、本当に産卵するかも予測不能。夜の真っ暗な海に連日2時間以上潜り続ける体力と高度なダイビングスキルが必要で、最初は「正直、無理だろうな…」と半ば諦めていました。
さらに立ちはだかったのが「社内の壁」です。
撮影には膨大な予算と取材期間がかかる上、「撮れ高」を保証できないロケとなると、OAを引き受けてくれる番組がなかなか見つかりません。
そもそも報道番組として成立させるには、「東京湾のサンゴが産卵するニュースバリュー」を証明する必要があります。
専門家や自治体、地元の漁師の方へ何度も電話取材を重ね、集めた情報を企画書にまとめて、番組に売り込みます。「サンゴの営業マン」になった気分で社内を駆け回りました。しかし返ってくるのは「これって本当に撮影できるの?」という半信半疑の声ばかりで、虚しくも企画書はなかなか通りませんでした。
取材開始のわずか1週間前になってもOA先は未定。手元に残った企画書の束を見て、「OA先が決まっていないのに取材ができるのか?」と焦りを感じ、ストレスで押しつぶされそうになりました。

東京湾のサンゴ
■ 極限状態の水中取材と、重圧
サンゴの産卵は、撮影技術的にも大変難しいです。
・真っ暗な海に潜れるダイビングスキル(暗闇で恐怖を覚えるほどです)
・1週間以上毎日2時間以上ずっと潜り続ける忍耐力
・20分ほどしかない産卵を確実に捉える撮影テクニック
・ワイドからマクロまで様々なアングルから撮影する技術力
これらをチーム全体で完璧にこなす必要がありました。

真っ暗な海でじっと待ち続けるカメラマン
カメラマン6人で、事前にカメラの配置やそれぞれが撮影する映像を入念に打ち合わせしました。「ワイド撮影をするカメラ」・「マクロ撮影をするカメラ」・「リポートするカメラ」に役割分担を行います。それぞれが別のカメラに写り込まないように人員や照明の配置など、調整は多岐に渡ります。
ダイビング器材や技術も通常とは異なります。長時間の撮影に備え、タンクを使用します。さらにタンクを1本水底に配置して、移動しながらの撮影に備え、待機中はそこから呼吸することで背負ったタンクのエアを節約しました。これで水深10mに2時間半以上待機することが可能になりました。
安全管理にも妥協はありません。
船と撮影ポイントの間のルートに小さな明かりを複数配置し、障害物にぶつかったり、迷子になったりしないようにします。海でトラブルが発生すると命に関わります。私たちは「絶対に事故は起こさない」という決意のもと、徹底的に不安要素を排除して潜水をしました。
これだけの装備が必要となると、一人ひとりが管理する機材の量もこれまでにないほど多くなります。初めて経験する高難易度の大規模撮影に、若手である私は足が竦む想いでした。3日目、4日目と成果のないまま時間だけが無情に過ぎ、「本当に撮影できるのか」と不安な日々が続きました。
■ 目の前に広がった「水中の桜吹雪」
その時は突然やってきました。
迎えた潜水7日目、ついにサンゴに小さなピンク色の粒を発見。「産卵の兆候」です。
真夏の海とはいえ、長時間の潜水で冷え切った身体を震わせながら、産卵までじっと待ち続けます。
目の前をひと粒のピンクの卵が通り過ぎた直後、周囲のサンゴから一斉に卵(バンドル)が解き放たれました!真っ暗な海が瞬く間にピンク色に染まっていく、息をのむほど幻想的な光景。
それはまさに『水中の桜吹雪』でした。
私の担当は、イクラよりも小さな卵が出てくる瞬間を狙う「超マクロ撮影」です。
4Kシネマカメラにマクロレンズとクローズアップフィルターを重ね、超マクロの世界を切り取ります。

画角を調整している筆者
この日のためにカスタマイズしたカメラを構えますが、潮の流れで少しでもブレれば即アウト。
「絶対に撮り逃せない」という重圧のなか、狙った卵がプクッと飛び出した瞬間、水中で「撮ったぞー!」と叫びました。大迫力の映像を前に、これまでの苦労が一気に吹き飛んで涙が溢れました。

超マクロ撮影の映像(卵はイクラよりも小さいです)

”大産卵”は僅か20分間の幻の光景
■ 価値ある映像を届けるために
一晩でわずか20分足らずの一斉大放卵。「価値ある映像」を追求したからこそ巡り会えた、一生忘れられない瞬間となりました。カメラマン冥利に尽きる取材でした。今後も誰も見たことのない世界を皆さんに届けるため、果敢に挑戦し続けます。

撮影メンバー(下段中央が筆者)