REPORT 現場リポート
ニューヨークカメラマン日記 Season3 Volume4
■ 大統領選の争点の一つ、アメリカが抱える「移民問題」
今年の11月に行われる、4年に一度のアメリカ大統領選挙。
アメリカだけでなく、世界情勢にも大きな影響を与えることが予想される今回の選挙は、トランプ前大統領の銃撃事件や、再選を目指すバイデン大統領の選挙戦からの撤退など大きなニュースが続き、日本でもにわかに注目度が上がっていると思います。
その大統領選の大きな争点の一つに、不法移民の流入問題があります。
前回のトランプ政権は、不法移民に対して強固な政策を行っていましたが、現在のバイデン政権では、寛容な姿勢で多くの移民を受け入れてきました。
大統領選を前に、現在の移民の流入状況を知るため、私たちはメキシコと国境を接する町を取材しました。
国境には延々と高い壁が建てられています。
■ アメリカ=メキシコ国境の高い壁
アメリカとメキシコの国境には、不法移民の流入を防ぐために、何百㎞にもわたって延々と高い壁が建てられていて、壁の上部には有刺鉄線が張り巡らされています。
一部の不法移民は、梯子を使い壁の上を越えてアメリカに入ってきますが、メキシコ側では軍が、アメリカ側では国境警備隊が常時パトロールしており、メキシコからアメリカへの越境は簡単ではありません。
しかし、一部山岳地帯や私有地には「国境の壁」が建設出来ていないため、多くの不法移民たちは、徒歩で山を越えるか、私有地のフェンスの隙間を潜り抜けて、アメリカへ流入しているようでした。
山岳地帯には一部壁の切れ目が。カメラの向こうはメキシコです。
■ 密入国の瞬間、衝撃の光景
私たちは国境周辺で取材している間に、多くの不法移民が流入してくるという私有地の管理者と、偶然知り合うことが出来、その場所での撮影が許されました。このように偶然の出会いから取材に繋がっていくことが、報道ではよく起こります。現場に行くと、そこには驚きの光景が広がっていました。
日中、フェンスの向こうメキシコ側からこちらの様子を伺う怪しい人影。密入国を斡旋する業者とみられ、アメリカ側の警備の状況を確認しているようでした。
業者が確認を終えた直後には、不法移民を乗せたバスがフェンス際に到着し、そこから何十人もの人が下りてきました。彼らは一列に並んだあと一斉に走り出し、フェンスの切れ目から次々とアメリカに不法に入国してきました。簡単に密入国が出来てしまっている光景に衝撃を受けましたが、私有地の管理者に話を聞くと、この光景が昼夜問わず繰り返され、毎日何百人もの不法移民が流入しているとのことで、こうした状況が日常となってしまっているようでした。
壁の隙間からこちらをのぞき込む怪しい人影。
壁の切れ目から大量の不法移民が入ってきました。
■ 国境に異変、増える中国人
不法移民たちはアメリカに入った後、国境付近のキャンプに集まり、そこで国境警備隊に連行されるのを待ちます。キャンプでは厳しい日差しを避けるために、テントを張ったり、岩陰で休んだりと、工夫しながら過ごしていました。
そのようなキャンプ地での生活を取材していると、不法移民の中にアジア系の人が多くいることに気がつきました。彼らのほとんどは中国から来たと言います。
昨年以降、中国人の不法移民は急増していて、彼らを支援するボランティアは中国語で書かれた配布資料も準備していました。
なぜ遠く離れたアメリカで、中国人の不法移民が増えているのか。話を聞いてみると、その多くは「自由を求めてアメリカにやってきた」と語りました。政府による締め付けの厳しい本国での生活から逃げるためにやってきた人や、教育のために来たと話す子供連れなど、様々な事情の人がいました。
国境付近の日差しは厳しく、布を張ってなんとか凌いでいました。
曹さんはSNSで中国政府を批判し、一年半収監されていたそうです。
■ アメリカ入国後の中国人不法移民の生活は?
国境で取材した際、中国人の不法移民の多くは、あまり英語を話すことが出来ませんでした。いったい彼らはどのようにしてアメリカで生活していくのか。その答えは、私の住むニューヨークで見ることが出来ました。
ニューヨークにある『フラッシング(Flushing)』という名前の中華街。通りには中国語で書かれた看板が立ち並び、スーパーの商品名もすべて中国語で書かれています。住民の多くは中国系で、ここであれば英語が話せなくても中国語だけで生活が成り立ちそうです。
この街に、中国人の不法移民が集まるということで、早朝、取材をしてみると、街の一角に多くの人の姿がありました。彼らは、不法なビザなしでの日雇いの仕事を求めて集まっていて、業者の車が来るたびに人だかりができていました。
ニューヨークにある中華街、フラッシング。一見しただけでは、ここがアメリカとは思えません。
早朝、日雇いの仕事を求め多くの不法移民が集まっていました。
■ 大統領選への影響は
今回の国境取材で見た密入国の瞬間は、島国で生まれ育った私にとっては信じられないような光景でした。しかし、陸続きの国境を有するアメリカでは、現在、日常的に不法移民が流入しています。
国境付近の住民は、毎日自宅の敷地内を何百人もの不法移民が通っている現状は、バイデン政権の政策のせいだと不満を持っていましたし、ニューヨークでも不法な就労が横行している状況は、多くのアメリカ人にとって肯定できるものではないでしょう。
今後、トランプ氏、ハリス氏、それぞれの掲げる移民政策が大統領選にどう影響するのか、11月の本選の後に、また報告したいと思います。
筆者 奥には国境の壁から歩いてくる不法移民たち。