REPORT 現場リポート
更なる進化を遂げた「野球審判カメラ」
NiTRoではスポーツ競技中のフィールド内から中継できる「インフィールドカメラ」を数多く掛けており、その中でも「野球審判カメラ」は日本野球機構(NPB)審判団のご協力・ご指導を頂き、年々進化を遂げてきました。
今回さらに進化した「超小型カメラ」の開発をしましたので、今までの経緯とともにご紹介します。
2011年。
球審に「SONY製豆カム」を装着いただき、世界初の「野球球審カメラ」生中継を実現。
当時としては類を見ない映像を生中継できましたが、
「カメラが重く、ジャッジに支障があるといけないので着けたくない」
「画角が狭いのでバットの先が切れてしまう」などの不満要素、改善要望が多く挙げられました。
「重い、軽量化を望む」と審判団からの要望を受け、小型軽量に特化したカメラ、「Nano(ナノ)-CAM」(通称N-CAM)を開発。
SONY製の「豆カム」と比べ体積比、重量比ともに7割減となり、審判団より好評を得ました。
そのおかげか今まで「ジャッジへの支障」を気にして装着NGだった方々も装着していただけるようになり、さらにレンズ交換が可能となったため、画角など「絵作り」にもこだわりを持てるようになりました。
ダイヤモンド内からの映像を撮影するため「2塁審カメラ」の運用を開始。
球審と同じN-CAMを使用するが、「重い」との声が上がる。
球審は約700gある「マスク」にカメラを装着していたため、取付治具込みで60gほどのカメラをつけても、そんなには気になりませんでした。
しかし塁審は約60gと軽い「帽子」に装着したため、取付治具を軽量化しても50gはあるカメラでは重さが気になりだし、小型・軽量化の要望が再燃しました。
そのような要望を受け2021年秋、新カメラ開発に着手。
1~3塁までの全塁審にカメラを装着することで、フィールド内すべてを網羅することが出来るように。
この段階では昨今の半導体不足のあおりもあり、新カメラの仕様を机上で固めるまでしか進まず、試作機を含めて実機検証できたのは2022年秋口に入ってからになってしまいました。
その後2023年初旬に複数台生産に向けた仕様が決定し生産に着手。
2023年6月17日、さらに小型軽量化した「Quecto(クエクト)-CAM」(通称Q-CAM)の運用を開始。
「Nano-CAM」と比べ体積比5割減、重量比3割減を実現しました。
「Quecto-CAM」を実際の試合で審判団に装着していただきましたが、「まるで着けていないみたい」と大好評を得ることができました。
装着姿も一回りコンパクトになり、より目立たたなくなりました。
「Q-CAM」は今まで「大きさ」や「重量」で敬遠されてきた各スポーツ審判・関係者に「この大きさなら・この重さなら」と思っていただき、装着していただくことで、「圧倒的で臨場感溢れる映像」を視聴者に届けられると考えています。
「N-CAM」でも多くの競技器具に取り付けて、選手の間近からの映像を撮影してきましたが、さらに小型な「Q-CAM」であれば、取り付けもさらに容易となるため、これまで以上に撮影できる幅が広がります。
同時に選手・パフォーマーにカメラの存在を感じさせずに、演技に集中できる環境を作れ、放送ではより選手に近い位置からの撮影ができるという、双方にとって共に良い方向につながります。
「Q-CAMを駆使し、仮想現実では味わうことの出来ない映像体験を届けたい」「こんな映像が見たい」という希望に対して、「こうすれば行ける」を考えて、日々進化させたいと思います。
参考
「Quecto」は国際単位系におけるSI接頭語の一つで、基礎となる単位の10-30倍(=0.000 000 000 000 000 000 000 000 000 001 倍、百穣分の一)の量。
2022年11月18日の国際度量衡総会で承認された「現行で最も小さいもの」である。