ラグビーワールドカップ イングランド大会。
ニュージーランドが史上初の2連覇で幕を閉じました。
また五郎丸選手がベスト15に選ばれるなどまだまだラグビー熱は衰えません。
私達の脳裏に刻まれたのは、9月19日の初戦にて
日本代表は世界ランク3位の南アフリカに34対32で競り勝ち、
世界を驚かす偉業を成し遂げた瞬間です。
イギリスのBBCやガーディアンなどの現地主要メディアも、
「ワールドカップ史上最大の番狂わせ」と報道され
ブームの火付け役となりました。
この大会の映像を日本に届けるために、我々NiTRoは
スポーツニュースENG班と中継班に分かれ、日々奔走しました。
今回は、そのENG班のカメラアシスタント、
そして中継班のカメラマンの二人が見たワールドカップを紹介したいと思います。


まずは、スポーツニュースENG班カメラアシスタントからの報告です!
私たちスポーツニュース班は大会日前の9月4日からイングランド入りし、
帰国は10月12日。約40日間の長期海外出張となりました。
手軽なファーストフードでも5ポンド〜8ポンド(約1000円〜1600円)という物価が
激高の国での40日間はいろいろとツライものもありました。
そもそも、われわれスポーツニュース班、
当初は練習や試合などを撮影して日本に伝送しても
OAでは短く扱われるくらいでは...?と、あまり期待を感じてはいなかったのです。
ところが、あの9月19日南アフリカ戦の劇的勝利以降、
日本での爆発的な盛り上がりにより、何を撮っても放送され、
日本テレビ本社からは「どんなネタでもいいからどんどん送れ~!」と、
現地で取材している私たちにとって嬉しい悲鳴状況になりました。


しかし、スポーツニュース班スタッフは
ディレクター、カメラマン、アシスタント(私)、コーディネーターの計4人だけ。
この4人で現地のネタほぼ全てを取材していました。
途中から別のディレクターが日本から応援に来てくれましたが、
技術はずっと2人・・・

私はアシスタントとしてカメラマンをサポートしつつ、
選手のインタビュー、ラグビー日本代表応援団長の舘ひろしさんや
「Going! Sports&News」での上田晋也さんロケ、
現地リポート生中継の音声業務も行いました。
スポーツニュースの取材では基本的に音声業務もアシスタントが行います。
普段からカメラの勉強や練習をしながら、
音声業務もしっかり出来なくてはいけないのです。

ところで、海外でのニュース取材では
撮った映像をいかに早く日本に送るかが重要になります。
今回もディスクで収録するXDCAMというカメラを使いましたが、
収録したディスクを日本に送っている時間はありません。
そこで行なうのがFTP(File Transfer Protocol)という伝送方法です。
ディスクに収録するのと同時に、別の収録機でSDカードメディアに収録。
そして、それをパソコン経由でインターネット回線を使い日本に映像を送るのです。
この方法はインターネットが繋がればWi-Fiでも伝送が可能です。
とは言っても、素材の容量が多いと送る時間もかかり、
さらにネット環境の悪い所だと15分の素材を送るのに4、5時間かかるなんてこともあるので、
日本のラグビー熱に対応し、素早い伝送を行うためには、
新しい街に移動した時、良いネット環境(有線LANがタダで使えると嬉しい)を
探すことが何よりも重要でした。

また、今回の取材では無線によるポータブル映像伝送システム (TVUPack) を使い、
簡易中継 (もちろん日本まで) も行いました。
TVUPackは、複数のワイヤレス回線をダイナミックに監視し効率よく伝送することで、
安定した、かつ高品質映像をリアルタイムで伝送することが出来るシステムです。
つまり、複数の電話回線などから電波が強いものを自動で選び続けることで安定した
映像を送れるのです。

セッティングもXDCAMとTVUPackをSDIケーブル1本繋げるだけ。
中継車やLAN回線を必要としない為、
様々な場所で即座に、移動しながらでも、HD映像中継が可能となります。
電話回線を使う為、スタジアムなど人が密集する所では回線を安定させることが難しいですが、
今回の中継では何とか放送を行う事が出来ました。

南アフリカ戦勝利の瞬間は、
選手だけでなく取材記者やテレビ関係者も抱き合って喜び、涙を流していました。
あまり注目されていなかった頃からずっとラグビーを取材し続け、
メディアとして支えてきた方々のラグビー愛を感じた瞬間でした。
日本での盛り上がりはラグビー取材スタッフにとって本当に嬉しい事で、
今のラグビーフィーバーが4年後の2019年日本開催まで続くことを願います。
今回1ヶ月以上、ずっと日本代表を追いかけてきました。
選手の何人かはアシスタントの私を覚えてくれているかも知れません (願望)
ラグビーワールドカップイングランド大会、
3勝1敗という素晴らしい成績を残しながらも予選リーグ敗退で、
『最強の敗者』の称号を手にして日本代表の戦いは幕を閉じました。
4年後の日本開催のラグビーワールドカップ。
今度はカメラマンとして選手たちを取材し、成長した姿を見せたいです!
続いて中継カメラマンからの報告です!

私たち中継班は、日本テレビの独自放送のため、
国際映像(オフィシャル映像)にプラス日本専用カメラ5台を
2名のカメラマンが持ち替えてオペレート、
また現地で日本語の実況・解説を行うため、
TD、カメラマン、VE、音声、総勢6名体制でイギリスに向かいました。
イギリス・ロンドンヒースロー空港から更に車に揺られること2時間半、
スコットランド戦が行われるグロスターのキングスホルムスタジアムに到着です。
秩父宮ラグビー場のような感じの競技場で、
収容人数も16500人と今回の会場の中でも小ぶりの方です。
ところで、海外中継では、言葉、文化、システムの違いから、
セッティングの段階から様々なことが起きます。

たとえば、私自身いつも海外に来ると感じるのは、
現地スタッフがセッティングしたカメラケーブルがむき出しのまま放置されて
「何で雨対策がこんなに適当なんだろうか?」と不安になったり、
(当日、カメラはきちんと動きましたが・・・)
VE担当の中継車に関してはEVS (スロー再生用などに使用する機材) への音声入力を
どこに何を入力すれば良いのか、
日本のVEスタッフは現地VEスタッフに紙に書くなどして説明しているようですが、
なかなか上手く通じず、セッティングは困難を極めているようでした。
また、音声でも文化の違いか入力のシステムが違うのか、
四苦八苦しているようでした。

中継当日、私はピッチ下手側スタンドのちょっと俯瞰目のカメラポジションを担当しました。
(写真右上) このポジションで前半が終わったあとのスロー再生に使われた
「五郎丸タックル」をお茶の間にお届けしました。
試合前は舘ひろしさんの顔出しリポートカメラも担当!
ドラマ「あぶない刑事」世代の私としては
カリスマ的な存在の方と仕事が出来たのもとっても嬉しかったです。
「あぶない刑事」の中では舘さん演じる鷹山敏樹刑事と柴田恭兵さん演じる大下勇次刑事が
「行くぜ、タカ」「OK、ユウジ」という台詞回しがあるのですが、
自分も「裕二」の名を持つものとして、生中継時のリポートの立ち位置などを舘さんにお願いした時に
「OKユウジ」って言って欲しかったなぁ~・・っと、話がだいぶ逸れました・・・

私たちが担当した試合はスコットランド戦だけでしたが、試合後すぐに帰国をせず、
2019年の日本開催のワールドカップを見据えての
ホストブロードキャストの見学会に参加しました。
これも今回の目的の一つです。
ここは各会場のダイジェストの編集・MAが行え、
更に試合中の同時通訳用のブースがあるなど
集中コントロールとしての役割を果たす場所です。
今回のイギリスのホスト担当局は一般のテレビ局ではなく、
スポーツ専用チャンネルの制作会社でしたので、これらのシステムが幾つも常設されています。
これは、一般のテレビ局では太刀打ちができないかも知れないと感じました。
また、中継車は作業空間を広げるためにトレーラー型を使用、
さらに通常の拡幅タイプ(下記写真の様に駐車後に車体の横に延びる構造で、
NiTRoの新中継車OB-Xもこの方式を採用しています) より更にもう一段拡幅 させるというもので、
車内の空間は中継車というよりもスタジオのサブコントロールルームそのものでした。

現在、ラグビーのゴール判定や反則判定にビデオ判定が使われることがあります。
今回、このホストブロードキャストには会場にあるすべてのカメラの中から
TMO (テレビマッチオフィシャル=ビデオ判定) に使用する映像を選び出して
即座に再生するためのシステムが組まれました。( 下記写真 )

ここで、審判の目では判定不可能なプレーを、
各カメラの映像からより見やすく判定のできるものを選び出し、
更には判定のため、画を拡大するなどの作業を行っていました。
しかし、オペレートはなんと・・・一人でした!
幸運にも、今回の大会のディレクターとスイッチャーさん( 上記右写真 ) にお話も聞くことができました。
「国際映像を放送する事で特に気をつけていることは何ですか?」
「フラットに撮り分ける事だね。」
「でも、自分の国が戦う試合の時にはやっぱりその限りではないんですよね?」
と聞くと笑いながら「いえ、フラットです。」と言われてしまいました。
至極当然なのですが国際映像の制作ってやっぱり「フラット」が基本なのでしょうね・・・
自分のスイッチャーワークをもう一度考えさせられた瞬間でした。
私自身は、初めてのラグビーワールドカップ中継業務をフランスで行い(2007年)、
ニュージーランド(2011年)・イングランド(2015年)と三大会経験してきました。
日本国内のラグビー中継も多数行いました。
また取材でも、全く言葉の通じない中、スリランカからニュース映像を送信するなど、
日本テレビのラグビー番組を支えてきたという自負があります。
でも、ここからが本番です。
ここまで蓄積してきた知識を、技術を4年後の日本大会に向けて繋いでいきたいと思います。

ENG班 筆者(錦織ではありません) 中継班筆者(ユウジ)