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WOWOW辰巳ファイリング室便り 「そもそも"ファイリング"って何なのさ?」

2017.08.09 放送技術・写真技術

WOWOWファイリング室の業務については、これまでの現場レポートでもご紹介していますが、今回はそのものズバリ、【ファイリング】についてお話します。

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江東区辰巳 WOWOW放送センター WOWOWファイリング室 11名が働いています

■あらまし
WOWOWは、2011年10月に3チャンネルフルハイビジョン化を行うとともに、テープでの送出からサーバーでの送出に切り替わりました。これにともない、今まで放送用テープをせっせとマスターに搬入していた"放送準備"業務がなくなり、代わりに放送用テープをサーバーにせっせと取り込む "ファイリング業務"がスタートしました。

ファイリング室には、WOWOWで放送している番組のうち、生放送以外の全ての放送素材(番組・番宣・CM)が納品されてきます。その数は月平均で、番組が700本、それに加えて番宣・CMも750件程になります。そのほとんどがテープでの納品となりますが、2015年6月より、放送用完パケ番組をファイルで納品することのできるシステムが稼働したこともあり、最近ではファイルでの納品も増えてきています。
(ファイルベース化についてはこちら)

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納品~ファイリング~放送のイメージ

納品された放送素材を「素材サーバー」と呼ばれるハードディスクなどに取り込む作業を「ファイリング」と呼びます。ファイリングの後はスタッフによる映像・音声の検品を経て、マスターの送出用サーバーに転送されて放送に至ります。

また素材サーバーに取り込まれたファイルからは「低解像度ファイル」が自動で生成されます。そのファイルはファイリング室のある辰巳の放送センターのみならず、赤坂のWOWOW本社の端末でも視聴することができ、制作さんや編成さんが番組の内容チェックなどを行えるようになっています。
その素材サーバーは容量が約500TBあり、映像素材5,000時間分の保存が可能ですが、この容量があれば、映画番組1年分が余裕で納まります。WOWOWでは映画番組を数か月後に再放送するという番組編成がありますので、大容量のサーバーに保存しておけば、再放送のたびにファイリングをする必要がなくなるわけです。
当然ですが、不測の事態に備えて素材サーバーは二重化、送出用サーバーは三重化されています。

170809_04.jpgまた稀に放送開始までに余裕のない状況でテープが納品されることがあります。この場合にはファイリングを行っている時間がありませんので、テープを自動でスタートし送出します。VTR送出中はファイリング室のスタッフが張り付いて、VTRとテープの状態を監視することで事故を防ぐ体制を整えています。











■ファイリングの実際

テープをファイリングするときには、"ファイリングカート"という機械を使います。この扉を開けると中には2台のVTRとテープを納める棚があり、一度にテープ70本をセットすることができます。

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ファイリングカート これが2台あります 納品テープに貼られたバーコード

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テープ本体には日時などの素材情報と紐付いたバーコードラベルが貼られています。このテープをファイリングカートにセットして扉を閉じますと...カートはセットされたすべてのテープのバーコードを読み取って、放送日時の近いものから順にテープをVTRに装填し、ファイリングを始めます。
1本終わったらテープを元に戻して次の1本へ...この動作はテープがあるだけ続きます。
これ、カートが全部自動でやってくれるんです。昔オートチェンジャー付きのCDプレーヤなんてものがありましたけど、それのテープ版だと思えば良いと思います。

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カートのお仕事のイメージ


人間の出番は、「テープをセットすること」と、「ファイリングの終わったテープを片付ける」だけ...。
そのため、納品された大量のテープをカートにセットして退社すると、翌朝にはファイリングがすっかり完了しているという訳なんです。いやはや、カートは本当に働き者ですね。
それでは人間はいったい何をやっているのかというと...?

■本業は"チェック"!
ファイリングした素材が放送に適しているかのチェック、これがファイリング室で最も重要な業務です。
様々なチェックを行ったうえで、「これを放送していいのか、ダメなのか」を最終的に決定するのが私たち人間の仕事です。

チェックはプレビュー室と呼ばれる防音の個室で行います。
(プレビュー室についてはこちら)

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プレビュー室 8部屋あります プレビュー室内観

そのチェックの中身は「人間には見つけにくいので機械にやってもらう機械的チェック」と、「人間の感覚とか判断が必要となる技術的チェック」の2つに分けられます。

■ 機械的チェック

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機械的チェックのイメージ


機械的チェックの流れをイメージ化したのが上の図です。VTRから素材サーバーに至る横向きの太い矢印が本来のファイリングルートです。
途中エンコーダという機械を通っていますが、これはVTRから出た映像・音声の信号を「放送しやすい形式に書き直す装置」です。

機械的チェックとは、「テープの映像・音声(オリジナル)と素材サーバーに入った映像・音声はまったく同じものか?」を確認するということです。
具体的には、「QuMax2000」という機械を使って、オリジナルの信号Aと素材サーバーから取り出した信号Bをファイリング中にリアルタイムで比較していきます。
それこそ映像なら一コマ一コマを隅から隅まで比べていきます。この時に微細であってもノイズがあれば即NGです。当然ながら音声も同じように比較します。
こんなことはとても人間にはできない仕事です。こうしてオリジナルとサーバーのファイルの同一性を確認します。

もうお分かりかと思いますが、"ファイリング"とは"、「オリジナルの信号を、何も足さず・何も引かずそっくりそのままサーバーに移す"こと」なのです。

機械的チェックの次の段階としては、「ファイル形式そのものに問題はないか?」、つまり品質のチェックを行います。
これにはCerifyという機械を使い、ファイルそのものを徹底的に調べ、少しでも損傷のあるものはNGにします。いくら美味しいお菓子でも、包装がおかしかったら商品にはならないのと同じですね。

これらの機械的チェックを経て、「このファイルは放送しても問題ないですよ」となります。
しかし、もちろんこれで終わりではなくて、いよいよ人間の出番、目と耳によるチェック、いわゆる【技術的チェック】が始まります。

それについては次回にお話しようと思います。

170809_13.jpg 筆者