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運行技術部 発 ちょっとだけ技術なコラム 其の六 「ゴーストの話」

2017.04.20 放送技術・写真技術

昔はあった?こわ~い"ゴースト"

■はじめに

テレビがデジタルに完全移行されて5年たちましたが、ちょっと昔のアナログだった時代を思い出してみてください。
image1.jpgアナログ時代にはテレビの中にお化けが住んでいたのです。貞子さんじゃありませんよ。
テレビの映像がこんな風に二重三重に映って見えることがありませんでしたか?

これを放送業界では"ゴースト"と呼んでいます。なんだ、ただの英訳じゃないのと思うかもしれませんが、このゴースト、テレビが見づらいうえに、なかなか消えてくれなくて困ったことがありませんか。





ところがデジタル化になって、このゴーストがすっかりいなくなってしまったのです。
懐かしいからたまには出てきてちょうだい、と頼んでも出てきてくれません。
いったいなぜでしょう。

それは、デジタルテレビの中にはゴーストバスターズが住んでいるからなのです!


■アナログテレビにはお化けがウヨウヨ

そもそも、アナログテレビにはなぜゴーストが出るのでしょう?
地上波のテレビは東京スカイツリーなどの電波塔から発射された電波を各家庭のアンテナがキャッチして映ります。
でも家庭のアンテナはとても包容力があって、直接波と呼ばれる「電波塔から真っすぐ届く電波」のほかに、反射波と呼ばれる「山やビルにぶつかって跳ね返ってくる電波」までキャッチしちゃうんですね。

image2.JPGこの反射波というのが「お化けの卵」なんです。
反射波は直接波より飛ぶ距離が長いため、アンテナに届くのが直接波よりちょっとだけ遅れます。
この遅れた時間の分だけ、映像がズレてしまうのです。
これがゴーストの正体です。
このゴーストは家庭レベルで退治するのがとても難しく、アンテナの方向を微妙に変えたりしても完全に消し去ることはできません。テレビを叩いても消えてくれません。
仕方がないので、近くの高いビルの屋上に共同アンテナを立てて信号を分けてもらう、ケーブルで配信してもらう、などという"難視聴対策"でゴーストと立ち向かうしかありませんでした。

最初の図ではメインの顔の右側にゴーストが表れています。これは反射などによって遅れた信号が現れたもので、「右ゴースト」と呼ばれます。ほかには送信所近辺のお宅で、ケーブルテレビで視聴している場合などは、顔の向かって左側に二重、三重に見える状態も存在していました。これは「左ゴースト」と呼ばれます。
左ゴーストが出る理由としては、ケーブルテレビで受信した電波に対して、送信所からの直接の電波が漏れて受かってしまう場合などが考えられます。この左ゴーストの対策は送信所からの電波を受けにくくする方法である程度対策出来ました。


■デジタルテレビではゴーストバスターズが常駐

さて、21世紀に入り、地上波放送がデジタル化されました。
デジタル放送になっても、家庭のアンテナはアナログ放送と同じように、直接波も反射波もキャッチしています。
ゴーストが出てもちっとも不思議ではないシチュエーションです。
...でも出ません。なぜでしょう。
それは冒頭で言ったように、デジタルテレビにはゴーストバスターズが住んでいて、お化けを一匹残らず退治してくれているからなんです。
ゴーストバスターズが持っている強力な武器が"ガードインターバル"と呼ばれるものです。


■ガードインターバルのからくり

まず、デジタル化した電波を「そのまんま発射」するとどうなるか...

image3.jpg反射波が遅れて届いた分、受信した信号は"シンボル"と呼ばれる、「それぞれの信号のかたまり」の前後が重なってしまい、重なった部分(図の黒斜線部分)は"ノイズ"となって使えません。
ノイズのない部分だけで信号を復元しようとしても、有効シンボルと呼ばれる必要なデータが取り出せません。

そこで送り手である放送局側で電波に「ちょっとした細工」をほどこします。
具体的にはそれぞれのシンボルの後端を、反射波による遅延に相当する時間分だけコピーして先頭にくっつけます。
デジタル信号って、こんなふうに信号の一部を切り取ったり貼り付けたりすることが簡単にできちゃうんです。しかもこれで信号の中身が変わることがないんです。

image4.jpgこうやって付け足した赤枠の区間が"ガードインターバル"になります。
つまり、ひとつひとつのシンボルを見かけ上ちょっとだけ長くして電波として送出しているわけです。
ではこの電波を受け取った側は何をしているかというと...

image5.jpgここでも合成波になると、図で黒斜線部分に表される「異なるシンボルが重なった部分」がノイズとしてできてしまいます。ここで先ほどやった細工により、この黒斜線部分がガードインターバル期間とほぼ同じ長さであることにご注目。細工は流々、さあゴーストバスターズの登場です。


■ゴーストバスターズ、いじめまくる!

image6.jpg...と言っても、ここでのゴーストバスターズは八面六臂の活躍はするんですが、かなり陰湿なんです。
やってることはノイズ部分(≒ガードインターバル期間)を「ガン無視」すること。
「アンタさぁ、信号としてなってないんだよねぇー。頼むからさぁー、引っ込んでてくんない?」
というわけで、情け容赦なくひとつ残らずガン無視しちゃうんです。もの凄い数です。
そうすると、ガン無視されたほうは引き籠って表に出て来なくなります。
こうして残った信号だけを取り出すと...ほら、元のシンボル長になったではありませんか。
めでたしめでたし。
このようにデジタル技術を使って、アナログ時代では難しかったゴーストのない、きれいな映像をお届けすることが出来るようになりました。
現場で働いていると、デジタルの有難みをつくづく感じます。

それでは次回は、アナログ時代にはなかったもの"●●●●"についてお話します。
お楽しみに!