ニュース

運行技術部 発 ちょっとだけ技術なコラム 其の四 「CM差し替えの秘密」

2017.03.31 放送技術・写真技術

系列局で流れるCMが違う?~CM差し替えの秘密~

■旅先では見慣れた番組もなんか違う?

旅行先でテレビを見ると、普段見ている番組がいつもと違う時間に放送されていたり、見たことのないCMが流れていることに気が付きませんか?
ネット系列の放送局は、東京の「キー局」や大阪の「準キー局」が配信している番組を24時間そのまま放送しているわけではなく、一部の放送枠をその局独自で制作した番組に切り替えて放送しています。
あるいは近接している数局が共同制作した番組を放送することもあります。


■ひとつの番組でも系列局で切り替え時間が違う

夕方の報道番組を例に見てみましょう。
あるキー局の報道番組を15時50分~19時までの3部構成で放送しているとします。
系列局によっては、その番組の一部分をローカルニュースや別番組に充てる番組編成を行っていることもあるため、キー局が放送している報道番組の第2部から放送したり、第3部だけ放送するなど、系列局によって放送開始の時刻が異なることがあります。

image1.jpg番組キャスターが第2部の開始時刻と第3部の開始時刻でも「こんばんは!」と仕切り直すように挨拶するのは、その時刻からキー局の配信に切替えた系列局の視聴者向けという理由もあります。
ちなみに、この報道番組を第1部から放送しているのは、9局、第2部から放送しているのが新たに9局、第3部だけを放送しているのが系列局全て、というような状況だとすれば、第3部だけが"全国放送"になります。
このためキー局は、全国向けのニュースも流しますが、番組開始からは第1部から放送している9局の視聴者に向けたローカルな話題や中継を織り込んだ番組作りになっており、第2部、第3部に進むにつれて、全国向けのニュースの比率を増やしていくという番組構成になっています。
旅先で番組表をチェックすると、このような系列局独自の番組編成を見つけることができます。その地域にいてそのタイミングでしか見られないローカル番組を楽しむのもよいものです。


■メジャーなCMの間にローカルCMが...

さて、系列局の編成によって放送される番組も変わりますが、CMもその地域の視聴者に向けたCMが流れています。よくその地域でしか見られないCMが動画サイトにアップされて、そのユニークさが大評判になることがありますね。
番組が全国放送なのに、その中に「〇〇商店大売出し!」みたいなローカル色満載のCMが流れるって、ちょっと不思議ですよね。

全国の視聴者に見てもらいたいCMを「ネットCM」といい、その地域の視聴者に見てもらいたいCMを「ローカルCM」といいます。このうちネットCMは、キー局が放送しているCMを系列局でもそのまま流せばOKです。
しかしローカルCMを放送する場合は系列局で"差し替え"をしなければなりません。
CMの入る時刻があらかじめ分かっている場合は、その時間に系列局でCMの差し替え処理を行えばよいわけですが、これが生放送のニュースやスポーツ中継などの、いつCMが流れるかわからないときにローカルCMを流すときは、どうしたらよいでしょうか?
系列局で確実にローカルCMへの差し替えをしなければ、つまりキー局が流しているCMに1コマの狂いもなくピッタリ重ねてローカルCMを流さなければ、いわゆる"チラ見え"が起きて、CMが傷つくことになります。
でも実際には、全国的に有名なCMの間にローカルなCMが綺麗に挟まって流れています。
いったいどういうカラクリになっているのでしょう?


■ネットCMの陰には高度な技術が...

image2.jpg上の図を例に説明しましょう。
スポーツ中継に15秒CMが4本、計60秒のCM枠があって、その2本目を系列局Aの営業さんが取ってきた「○○青果店」のCMを流すこととします。

試合が一段落して、キー局ではCM発射ボタンを押してCMに切替えます。しかしその刹那、まさにそのCMに切替わった瞬間、1コマの狂いもなく"ある信号"が映像信号に紛れて系列局に伝わっています。
その"ある信号"は「Q信号」と呼ばれていて、ざっくり言えば、「このタイミングで切り替えてください」という内容の信号です。

この例の場合、Q信号はこんな内容になります。

 内容① 1つ目のCMは00秒から15秒までキー局から送られてきたCMをそのまま流す。
 内容② 2つ目のCMは15秒から30秒まで自局に切り替えてローカルCMを流す。
 内容③ 3つ目のCMはまたキー局に切り替えて、送られてきたCMをそのまま流す。
 
 あとはそのまま中継に戻る。

系列各局がこのQ信号の内容に一斉に反応することで、CM枠の2本目がローカルCMに差し替えられているのです。

このQ信号は、「キー局がCMに切り替えたと同時に発射される」というのがミソでして、これによりCMタイミングがわからない番組でも1コマの狂いもなくローカルCMへの差し替えができているのです。
しかもQ信号の内容を変えれば色々な応用が利き、例えばネットCMとローカルCMがぐちゃぐちゃに混じっていても大丈夫ですし、CM枠全部をローカルCMにすることもできます。

以上、簡単に説明しましたが、こういうことができている陰には、とっても高度で精密な技術が使われています。
ローカルCMとQ信号は切っても切れない関係で、この技術によって各局のCMの安定放送が支えられているのです。

image3.jpg














筆者