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運行技術部 発 ちょっとだけ技術なコラム 其の壱 「地デジ化で何が起こった?」

2016.03.03 放送技術・写真技術

【まえがき】・・・・今回地上波マスター担当からお届けします!!

皆様おなじみの日テレ地上波その放送を総勢50名、大半がメンズの技術者によって支えております。
マスターの業務概要は「2015/12/28 放送技術の業務」の記事を見ていただければと思いますが、その内容は多岐に渡ります。24時間365日完全無休で、クリスマスも年末年始も関係なく絶賛営業中なのです。マスターは「制作的」なコンテンツを扱うというよりも、「技術的」な設備・信号を扱う縁の下の力持ち的な部署で、日々技術を磨いております。
これから定期的に、技術的視点からトリビア的コラムを発信していきますのでよろしくお願いします。

~ アナログ放送終了、地デジ化で何が起こった? ~

■どうして実施?デジタル化

理由の一つに電波事情があります。使用できる電波資源には限りがあり、放送や通信事業等の急速な増加や無線通信の高速化に伴い、電波が満員電車のように逼迫していました。
そこで「デジタル化」することによりテレビ向けの使用領域を今までの2/3へスリム化し、残りの1/3を通信等へまわして、限られた領域をみんなでな仲良く使いましょ、ということになったのです。
理由その二。デジタル化の恩恵として、アナログ時代に使用していた情報量と同じ情報量でハイビジョン放送やワンセグ放送・データ放送・EPG等をギュギュッと詰め込んでお届けすることが可能になりました。便利になりましたね。
理由その三。デジタル化することにより、電波状況が多少悪くても劣化の無い鮮明な映像・音声を受信可能となりました。アナログ放送では、電波状況が悪いと、映像が二重に見えたり、色が変になってしまったりしましたが、デジタルは「映るor映らない」のどちらかです。


■そもそもデジタルって

「デジタル」という言葉を良く耳にすると思いますが、改めてデジタルって何だろうって考えたことはありませんか? デジタルに対応する言葉はアナログですが、これらの違いはなんでしょうか。
色々な表現があると思いますがその一つとして「アナログ=連続」「デジタル=離散(0101...)」なんて言われたりしますね。
電気的・物理的変化をそのまま捉える(アナログ)のか、0と1のデータに変換して記録するのか・・・・・解りづらいですね。
時計で例えれば、長針と短針があって「連続」して動くものがアナログ、1秒、1分単位で表示されて連続していないのがデジタルという捉え方もできます。
では信号の記録、伝達という観点からアナログとデジタルの違いってなんでしょう?

アナログは・・・・

音声信号に例えてみると、音には振幅と周波数、さらに時間という要素があります。振幅というのは簡単に言えば「音の大きさ=音量」、周波数は「音の高さ=音程」ということです。
アナログの場合にはそれらをそのまま記録したり伝達したりします。したがってそれらの処理をする途中で波形が乱れることがあると、そのまま影響をうけます。

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デジタルは・・・

それに対してデジタルというのは、元の音を決まった間隔で切り分けて、それぞれの点をデータ化したものです。音というのは元々アナログ信号ですので、それをデジタル化する作業が必要になります。それが符号化(サンプリング)という作業です。サンプリングされた信号は1と0の集合体となります。音を切り分ける間隔をサンプリング間隔(サンプリングレート)、またあるポイントをデータ化する時に何段階のデータで表すかを量子化ビット数と呼びます。サンプリング間隔が細かいほど、また量子化ビット数が多いほど、原音に忠実になるということです。
なぜデジタル化するのかというと、ノイズに強いこと、データ量を小さくできることなどがメリットとして挙げられます。

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■生放送はLIVEではない!?テレビの映像は約2秒強だけ過去映像!?

そうなのです。実は地上波テレビの映像は実際より2秒と少し遅れています。例えば、ZIP!の放送中に出演者の方々がZIPポーズをすると、その映像は約2秒強後にテレビに流れます。
これはなぜでしょう?
放送局は、限られた容量の中でハイビジョン放送を送るために映像・音声のデータ量を元と比べると大幅に小さくして送り出しています。その際にテレビ局から送り出す時にはギュッと縮める「圧縮」をし、受像機の内部では逆に元に戻す「伸長」という処理をおこなっています。布団圧縮パックのようなイメージで、小さくするにも元に戻すにも時間がかかりますよね。映像の圧縮にはMPEG2を使っており、圧縮では人の目では感じにくい部分を間引いたり、映像的に変化の無い部分の情報を間引いたりして相当ダイエットしております。そんなこんなでTVまで到着した絞り切られたデータはほぼ元の映像に戻されトータルで約2秒強遅れて視聴しているわけです。受像機の性能にもよるところなので、それぞれで遅延量は若干変わってきます。受像機を複数お持ちの方は比べてみても良いかもしれませんね。携帯等のワンセグ放送とテレビでもまた違うのでお試し下さい。

- そういえば時報って無くなった?
実は、地デジ化に伴い時報音の運用がなくなりました。最近あの「ポーン」という音を聴いてないですよね。もう鋭い方は気付いているかもしれませんが、時刻スーパーの表示が以前とは少し変わっています。時刻が変わる瞬間を見てみてください・・・以前まで毎時毎分でパキッと変わっていましたが、今はヌルっと変化しています。時刻の境目が曖昧になっているはずです。これは先に説明した遅延が発生する為に、正確な時刻をお伝え出来ないからです。時刻スーパーは遅延分を差し引いて早めに切り替えておりますが、受信機によって遅延量が一定では無いため、切り替わりはフワッと変わるようになっています。

- 緊急地震速報が二種類
大きな揺れが来る前に予測しお知らせする緊急地震速報ですが、実は2種類の方法で受信機までお届けしています。
しかしここでネックになるのが、再三申し上げている「遅延」。一刻一秒を争う非常に重要な情報なので少しでも早くお伝えしたいのですが、この遅延のせいで...。
このジレンマに放送局はどのように取り組んでいるのでしょうか。



Ⅰ.画面上に文字スーパー+右下に地図のスーパー

デジタル化初期のころはこうやっていました。
時刻スーパーや番組中のテロップと同様に映像に焼きこまれ、完成された動画映像として情報をお届けする方法です。先程、リアルタイムの映像と受信機の映像では2秒強の遅延があるとお伝えしましたね。という事は...この焼きこまれた緊急地震速報も、実際に発令された時刻より数秒遅れて表示されています。なので「揺れにご注意下さい・・」と受信機に表示された時点で既に揺れている可能性もあるのですね...。
これでは遅延を克服したとは言えません。ではどうするか?

Ⅱ.赤い下地に白文字の文字字幕のようなスーパー
映像・音声は圧縮をかけていますが、それ以外のデータ (EPGやデータ放送・字幕放送等)は圧縮をせずそのまま送っており、遅延は圧縮・伸長の処理が必要な映像として送る方法と比べると少ないです。これに目をつけ、字幕放送を利用する方法を考えました。外国語映画の日本語訳や、耳の不自由な方向けの文字字幕と同じ技術です。字幕放送は非圧縮のデータとして送出し、受像機側で映像にスーパーさせています。なので多少の遅延はありますが、圧縮された映像を元に戻すよりも早く表示させる事ができるのです。現在の緊急地震速報はこのような方法を取っています。
ちなみにチャイム音も一緒に鳴りますが、これは受像機内蔵の音声です。字幕データには「音も同時に鳴らしてね」という指示が入っていて、受像機にてスーパーさせつつ、内蔵音を鳴らしています。
この様な工夫で、わずか数秒だとしてもいち早く重要な情報をお伝えしております。



今回のコラムはこれくらいにしたいと思います。いかがでしたか?普段は意識することなく視聴している放送も、実は色々とより良い方向へ変化しています。また次回も、ちょっと技術的に放送を掘り下げてみたいと思います。
お楽しみに!

其の弐(インタ楽ティブに進化!日本のテレビ放送)