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放送技術の業務

2015.12.28 放送技術・写真技術

放送技術っていったい何やっているの?...
普段ロケや編集など"番組作り"に従事している同業者からもこんな質問を耳にします。
そこで今回は放送技術の業務を薀蓄も交えてざっくり紹介しましょう。

【マスター業務】  

NiTRoは、TVでは日テレの地上波マスターとBS日本マスターを担当しています。
マスターは放送局の最後にある部署で、そこから地上波ならスカイツリーなどの電波塔、BSなら衛星放送に信号が送られ、視聴者に届けられます。

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地上波のマスター監視卓           BS日本マスター監視卓

NiTRoはほかにもラジオのFM東京とラジオ日本のマスターを担当していますが、
こちらは過去の現場レポート(放送技術 2015年7月8日・10月21日付)をご覧ください。

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FM東京マスター            ラジオ日本マスター監視卓


◆何故"マスター"と呼ばれるのか?

昔はアナログ放送時代の流れで「主調整室」と呼ばれていました。その上流のスタジオには「副調整室」と呼ばれるコントロールルーム(サブコントロールルーム)がいくつもあって、その"サブ"を束ねる意味で"マスター"(マスターコントロールルーム)と呼ばれるようになりました。
デジタル化になって信号精度が高まり、機器を調整する機会が減ると、マスターは次第に"主調整室"という意味合いが薄れ、かわってCM、データ放送、字幕などを総合的に取り扱う業務が中心となったことから「メディアセンター」と呼ばれるようになっています。

◆マスターのミッション...レギュラー

マスターの仕事のメインは、新聞や雑誌のテレビ番組表の通りに番組やCMを送出することです(実際には番組表よりもっと細かい"放送進行表"を元に送出しています)。そのために現在放送している番組が最高の画質と音質で流れているかを監視し、放送機器のチェックを24時間365日行っています。

監視中は車の運転と同じで"よそ見厳禁"です。目と耳を研ぎ澄ませて画面とスピーカーに集中し、どんな小さなノイズも見逃しません。不具合があった場合は、直ちに後ろにいるMD(マスターディレクター)に報告し、原因を調査します。放送の不具合は番組の切り替わりの時に起こりやすいので、その時はさらに集中!です。

監視の仕事はとてもくたびれるので、1時間で交代します。交代した監視員は、少し息抜きをしたあと、放送素材のセットや機材チェックを行なうサポート役に回ります。

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集中!集中!集中!           放送進行表 これで放送時間にして約10分


◆マスターのミッション...イレギュラー

よく「マスターっていいよなあ、テレビだけ視てればいいんだから...」という声を耳にします。
とんでもない!

マスターは、ほかにもとても大切な仕事をしているんです。

① アンタイム番組の延長作業

スポーツの生中継などで「放送の終わり時間のわからない番組」があります。これを試合展開によって延長してゆく作業です。5分延長、10分延長、15分延長...、制作・編成側から次々と、しかもギリギリに指示が来るのですが、これを迅速かつ的確に処理しなくてはなりません。もしこれを間違えてしまうと...想像したくありません。

② 緊急ニュース速報の送出

地震や重大事件が起きると、地上波マスターは報道フロアーとマスターに有る、テレコール(常時接続された電話)から監視者に今スーパーが送出できるか問い合わせが頻繁に来ます。生放送中ではサブコンとのやり取りも行います。

BS日本ではマスターにある速報端末に続々と情報が飛び込んできます。これをマスターでは「なにを最初に視聴者に伝えるべきか」の優先順位を判断しながら、次々にスーパーしていきます。

津波注意報(警報)が出た時などは、マスターは蜂の巣を突いたような大騒ぎとなります。しかしマスターのスタッフは舞い上がったりしません。冷静沈着に次々とスーパーを送出していきます。

マスタースタッフをこなすには、豊富な知識と注意力が必要ですが、この"冷静さ"も大切な資質かもしれません。

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速報端末 次々と最新情報が押し寄せる。

③特番対応

激甚災害が起きた時などは、通常の番組を打ち切って特番に切り替えます。言葉にすると簡単ですが、これが大変な作業なんです。放送進行データを書き替えたり、回線の手配をしたり、ネット局の対応をしたり...。休んでいるスタッフに出社を求めることもあり、まさにマスターの総力を挙げてのぞみ乗り切ります。

こいいう事態は長いマスターキャリアでも滅多に起こるものではありません。もしかしたら一度もないかもしれません。しかし、マスタースタッフは「今この瞬間に起きるかもしれない」と想定して訓練に励み、日々イメージトレーニングを積んでいます。


【CMバンク業務内】

CMバンクは、広告代理店からテープやディスクで持ち込まれたCM素材を放送用サーバーにファイリングする業務です。

CMは民放にとってとても大切なものですから、ファイリングするときはどんな小さなノイズも見逃しませんし、音声レベルなど、ありとあらゆるチェックをおこないます。そして少しでも「?」と思ったら、必ず問い合わせて確認を取ります。

CMバンクのスタッフはしつこいですよ。

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CMバンク 写真では一人ですが、必ず二人で作業します。

ファイリングされたCMは、不測の事態を想定して2系統ないしは3系統の予備系サーバーに納まります。さらに念には念を入れて、ファイリングされたCMを放送順に並べてテープにダビングし(これを"1本化"と呼びます)、マスターから直接送出できるようにしています。つまりCMだけは絶対に放送漏れが起きないようにしているのです。

◆なぜ"CMバンク"と呼ばれているのか?

放送業界の収入の7割はCM・広告収入で成り立っていると言われます。つまり、放送業界にとって"CM=お金"なのです。

本来なら"CMファイリング"とか"CMサーバー"と呼べばいいのですが、放送局にとってはCMは銀行と同じ、という意味で特別に"CMバンク"と呼んだ。などという説もありますが、さて真偽のほどは...?

【回線運用業務 SOC/SDC、回線ブッキング業務】

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回線運用SDC/SOC卓  最適で安い回線ルートを探し出す。

直訳すれば、

・SDC:Signal Distribution Center →信号を分配する部署
・SOC:Satellite Operation Center →衛星回線の運用・管制する部署

となります。

つまり、海外や中継先から届いた信号を局内のサブコンや収録センターに送ったり、その逆で、局内で作った信号を海外やネット局に送ったりする部署で、スポーツやイベントの中継や報道には欠かせません。ここも24時間365日体制です。

箱根駅伝や24時間テレビはもちろん、サッカーのクラブワールドカップでも、このSOC/SDCが大活躍しています。

この部署を担うには、放送技術の知識のほかに無線の知識が不可欠で、無線技士の国家免許を持ったスタッフがわんさか存在しています。

回線ブッキングは、ネット回線の取得や衛星回線のハンドリングを行なう部署です。
日本テレビとネット局は、日々膨大な量の放送素材をやり取りしています。これらすべての回線を確保し、回線使用時間の差配をしており、SOC/SDCと切っても切れない関係で、マスターとも深い連携が必要です。

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回線ブッキング室 ネット局からの電話が絶えない

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                回線運用とマスターの関わりイメージ図



...ここまで放送技術の業務を紹介してきましたが、かなりのボリュームになっていますね。
放送技術の業務にはほかに、放送進行や番組ファイリングなどの"放送準備系"の業務があるのですが、
それについてはお正月明けにレポートします。

それでは皆様、よいお年を!
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